拾ったパオパオのFeLV猫白血病ウイルス感染がわかった瞬間、パオパオはうちの子になることが決定しました。そのときから、こうなることは覚悟していました。
FeLV感染猫と暮らすのは初めての経験ですが、アメリカのシェルターのボランティア仲間だったサンディがFeLVキャリアの子をたくさん引き受けており、彼女の経験談を聞く機会がありましたから。どんなに元気そうに見えてもやはり長生きできないこと。中でもリンパ腫という血液系のガンになる確率がとても高いこと。リンパ腫の治療は抗がん剤がメインですが、FeLVキャリアの場合、仮に抗がん剤治療の効果があったとしてもそれは短期間だけのもの。だから、パオが元気だった時期の私は、抗がん剤治療をあまり積極的に考えていませんでした。
しかし、今は、少なくともパオ男の場合は、抗がん剤治療に即踏み切って本当によかったと思っています。ガンの種類によって治療の選択肢は違うし、何より猫そのものの個体差も、下僕の考え方の個人差もあるので、私のやっていることが普遍的に正しいとかそんなことを言う気持ちはサラサラありません。しかし、愛猫がガンと診断されたとき、下僕はどうすべきか、激しく悩むと思います。そんなとき、誰かの体験談がどれだけ役立つか。それは私が常々痛感しているところなので、治療が現在進行中の段階でもブログに書くことにしました。
話が長くなりますので、ここから先は畳みます。続きは、ご興味のある方だけ、どうぞ。
パオ男のガンはかなり進行の早いタイプだと思います。ちょっと食欲が落ちているな、と思ってから、2,3日で「あれ?呼吸がいつもと違う?」と気づきました。しかし、そのときにはまだ1メートル以上ある本棚の上に飛び乗れる元気がありました。バカオは、「気のせいじゃない?」と言っていましたが(だから、お前はバカオって呼ばれるんだよ!)、私は迷わずその翌日、急遽午前中休みを取って、パオ男を病院に連れて行きました。
結果は最悪。心臓の隣に大きな腫瘍があり、既に胸水がたまり始めていました。腫瘍が気管を圧迫し、胸水で肺もつぶれている状態。急いで胸水を抜き、病理検査に出しました。そして、かかりつけのS先生と治療法について相談。まだ、病理検査の結果が出ないけど、既に抗がん剤治療を始めるかどうか。始めるとしたら、どの薬剤から使うか、を考えなければならないといわれました。
実は、この時点でS先生には、酸素テントをレンタルして自宅に設置することも勧められました。S先生はパオ男は仮に抗がん剤治療を始めても、持って3週間、下手すりゃ1週間だと思っていたらしいのです。それくらい大きな腫瘍だったということでしょう。先生の余命の見立てにひるんだ私は、実は少しだけ抗がん剤治療をしないことを考えました。そんなに手遅れならば、辛い副作用を経験させてまで、抗がん剤を打つ必要はないんじゃないか、と。
その日は午後に1本会議があったので、とりあえずパオ男を預けて一旦出社。迎えにいけたのは、もう7時近かったかな。だけど、この通勤時間中にスマホでいろんなサイト(主にアメリカのネット上)で情報を収集できたのが、今考えればよかったのです。
FeLVポジティブな猫のリンパ腫でも抗がん剤治療にはいい成績があること。50%は抗がん剤に応答し寛解までいたるケースがあること。寛解の期間は、残念ながら平均数週間と短いけれど、幸いにも副作用はあまり大きくなく、仮に出てもいろんな薬剤を補助することで、相当程度コントロールできること。人間の抗がん剤治療の副作用のひどさを見たことがあるので、その1点で私は猫の抗がん剤治療に躊躇していました。だから、副作用が比較的小さいというコメントを見た瞬間、すべての迷いは消えて心が集中したのです。
やれるところまで、やろう。パオと一緒に頑張ろう、と。
病院に戻ってS先生に私の決心を伝えました。そして直ちに抗がん剤を使うことにしました。先生は、病理の結果を待つかと聞きました。私は、多分パオのガンは時間勝負だろうから、この1週間を無駄にしたくない、確定診断を待たなくても、状況証拠から、リンパ腫である可能性が高いのだから、直ぐ始めたいと答えました。
ただし、薬剤の選択はS先生と話し合い、少しプロトコルから、外しました。リンパ腫治療の一番普及しているプロトコルでは、一発目の抗がん剤はビンクリスチンなのですが、ビンクリスチンは食欲減退の副作用が大きいのです。また、ビンクリスチンは静脈投与なのですが、万一静脈からもれたら周囲の組織を壊死させるほどの劇薬。リンパ腫の確定診断の前にビンクリスチンを打つのは時期尚早だろうということで、一本目の抗がん剤はLアスパラギナーゼにしました。Lアスパラギナーゼの副作用としてはアナフィラキシーショックが知られているので、事前にステロイドのデキサメタゾンも打ちました。
1回目の抗がん剤投与の後、病院から自宅に戻ったときのパオパオはぐったりしていました。それは薬のせいと言うよりは、そのときまでに溜まっていた胸水による呼吸困難と、丸一日いろんな検査に付き合わされて激しく体力を消耗したせいだと思います。Lアスパラギナーゼの副作用が一番感じられたのは、投与した翌々日でした。その日は、本当に元気がなくて、ご飯もほとんど食べられませんでした。しかし、3日目くらいには、徐々にご飯が食べられるようになり、食欲増進剤は使いませんでした。この間もずっと自宅で毎日プレドニゾロン(ステロイド)を飲ませていました。ステロイドは胃を荒らす副作用があるということで、一緒にガスター(胃酸を抑える薬)も飲ませました。
抗がん剤2本目を打つときには、実はまだ細胞の病理検査の結果は出ていませんでした。しかし、胸水の遺伝子検査クロリナーゼの結果、T及びBリンパ球がそれぞれ腫瘍性に増殖していることがわかったことと、パオの腫瘍はLアスパラギナーゼの投与後縮小し、胸水の貯留もほとんどなくなっていることがレントゲンとエコーでわかったので、ビンクリスチンを打つことに決めました。
ビンクリスチンを打った後も副作用を一番強く感じたのは、2日目以降でした。しかも、このときは2日目から5日目までかなり具合が悪そうでした。ビンクリスチンが食欲を損なうことはわかっていたので、すぐに食欲増進剤を飲ませたのですが、なかなかご飯を食べられずやきもきしました。とにかく自分の口から食べること、食べる意欲を持続させることを目的に、何でも好きなものを食べさせました。放置しておくと絶対食べない子も、つきそってスプーンで食べさせると食べられたりするので、ちょっとずつでも食べてもらうように励ましながら、時間の許す限り一緒にいて、常にスプーンを片手にパオパオに付き添いました。食欲増進剤なしで、自力で食べられるようになったのは、投与後6日目からでした。
抗がん剤3発目は、シクロフォスファミドです。これは今までの2つの抗がん剤に比べて、最も骨髄抑制の出る薬で、かつ、出血性膀胱炎の副作用が出ることが知られています。実は、このときあまりパオパオの体調がよくなかったので、シクロフォスファミドを打つタイミングについては、ちょっと躊躇がありました。しかし、ビンクリスチン投与後、腫瘍がさらに小さくなっており、S先生はここで畳み掛けて一気に腫瘍をつぶしてしまいたい、と言うので、私もその可能性に賭けることにしました。
シクロフォスファミドの副作用を考えて、投与前には輸液をしておきました。また、自宅ではステロイドに加えて、抗生物質を毎日飲ませることになりました。そして、次回の抗がん剤治療の前に、途中で一度検査のためだけに病院に行くことにしました。そのときの全身状態を見て、追加の補助的処置をするためです。
S先生の予測どおり、シクロフォスファミドの副作用は、2回に分けて出ました。最初の波はいつものとおり、投与後2日目に食欲不振で出ました。しかし、この食欲不振の波は、食欲増進剤の手助けもあって割りと早く去りました。その後に出た第2波は、骨髄抑制によるもので、投与後5日目くらいから出始めました。つまり、白血球数が下がったために感染症にかかりやすくなるというものです。パオパオは発熱し、ご飯が食べられなくなりました。このタイミングで病院に行くことになっていたので、追加の抗生物質を注射してもらい、脱水しないように輸液もしました。白血球数は下がってはいましたが、たぶんこの時点が最下点で、また上がって来るだろう、とS先生は言いました。
シクロフォスファミドの投与により、腫瘍の影はほとんど見えなくなりました。パオパオはまだ若く比較的体力があるおかげで、抗がん剤の副作用にもよく耐えていると思います。少なくともワンクール目は、劇的とも言える効果がありました。これがいつまで続くかわかりませんが、抗がん剤治療をしたおかげで、たとえ数ヶ月でも彼にGood Quality of Lifeを楽しんでもらえることが出来たのなら、もうそれで十分。自分の選択に間違いはなかったと思っています。猫の1週間はヒトの1ヶ月。猫の1ヶ月はヒトの4ヶ月。末期がんの患者が、1ヶ月、ほぼ普通の生活が出来るとしたら、それはものすごいachievement達成だと思うんです。だったら、仮に1週間しか延命できなくても、その延命期間中に元気だったころとほとんど変わらない生活が出来るのなら、治療をすることに十分意味がある、と今の私は断言します。
早晩お別れの日が来るのは避けられないのですが、そのときまでどんな風に生かしてあげられるか。いえ、生かしてあげるというのは僭越で、彼の命に介入することは私たちのエゴでしかないのかも知れません。が、彼が気持ちよく生きられるならば、その時間を続けられる限り、続けさせてもらいたいのです。そのために私たちに出来ることは何でもします。
猫の神様へお願いです。どうか、私がパオパオの闘病記を少しでも長く書き続けられますように。天国のトロちん、あなたの小さい弟を守ってあげてください。