あの事件が起こってから、かれこれ3ヶ月近く経ちました。本猫ミスティは今日も絶好調で、下僕もさすがに安心してもいいかな、と思えるようになったので、まずは我が身への戒めとして、また同じ間違いを犯す飼い主さんがいなくなるように、きちんと詳細を記録し公開したいと思います。
事件が起きたのは、私が一時帰国していた日本からブラジルに戻ってきた直後のことでした。日本でお猫さま方が狂喜乱舞する素敵な猫じゃらし系のオモチャを買ってきたんです。で、予想通り、ルイルイさまを除くほぼ全猫に大好評で、下僕としては最高にいいお土産を買ってきた、と自画自賛していたのでした。
ところが、ミスティがその猫じゃらしの紐の部分を噛み切って飲み込んでしまったんです!これは完全に不注意にもオモチャを放置した私の責任、私の過ちです。特に、ハルのラグの糸飲み込み事件があったのはつい去年のことなのに、同じ危険にミスティをさらすとは。ミスティはハルと違って何でも噛んだりしないので、ノーマークになっていたのも下僕としては本当に迂闊でした。当時、一時帰国から戻ったばかりで片付けに追われていた上に、家の中で大規模な水漏れが起きてとにかくゴタゴタしていたのは確かですが、大事なお猫さまを危ない目にさらした言い訳にはなりません。
しかし、糸が忽然と消えた初日は、正直言って事の重大さにまだ気がついていませんでした。猫じゃらしの糸がなくなっているとは思いましたが、まさか猫が全部飲み込んでいるとは思いもしなかったです。その日は珍しくミスティがちょっと咳き込んでいるな、と思いましたが、吐くこともなく、食欲がなくなることもなく排便排尿も正常で、普段どおり元気でしたから。だから、糸を噛んで切っちゃったかも知れないけど、きっとどこかから糸そのものは出てくるだろうと思っていました。
その日は大家に連絡したり職人さんの手配をしたりで、水漏れ事故の対応に追われていました。なんせ裏庭から洗濯室・台所まで水浸しだったので、そちらの掃除を優先して家の中で猫じゃらしの紐を捜索するところまで手が回りませんでした。翌日、やっと家の中を掃除する時間が出来たので、家具を全部動かし、ラグの下、ソファーカバーの下、とにかく切れた紐がまぎれてしまいそうなところ、全部、探しました。
ありません。
紐は忽然と消えていました。でも、ミスティは元気です。まったく普段と変わりがありません。バカオにも話しましたが、紐なんか飲み込まないだろう、と信じてもらえませんでした。でも、猫じゃらしの紐の部分がなくなったのは事実なんです。もう1度大掃除をしました。
ありません。
もしかしたら、掃除機で知らない間に吸っちゃったかもしれないと思って、Mieleの掃除機のダストパックを破って中のゴミをくまなく調べました。
ありません。
あれ、じゃぁ、もうウンコになって出ちゃった?と思って、ウンコもほぐして調べました。ええ、5個分。誰がしたかはっきりわかんなかったから、ぜーんぶのウンコ、調べましたよっ。
ありません。
うーん、どうしたんだろう。
でも、まだこのあたりまでは実は私もさほど深刻には考えていませんでした。ハルのときみたいに、お尻から出てくる可能性が高いと思っていたので。吐いたり、食欲がなくなったり、排便に異常が出たり、何か兆候が出るまでは見守っていればいいかな、くらいに考えていました。
が、念のため、そもそも紐が何センチくらいあったのか、調べておこうと思いました。そうしてネットで検索した商品概要には85センチ!と書いてあるではありませんか!ええーっ。そんなに長かったっけ?まぁ、根元部分は残っているので、そこから逆算すると消失した紐の長さは70センチから80センチくらい?しかし、そんな長さのものを飲み込むことが出来るものなのか?という次の疑問が浮かんで来ました。
で、ググッてみたら、出てくる出てくる、怖い話がたくさん。たとえば
こちらの獣医さんのブログには、紐状異物を誤嚥した猫のレントゲン画像と開腹手術時の画像があります。(手術の画像はややショッキングなのでクリック注意)
20、30センチは序の口、1メートル以上の長さも十分ありえるようです。紐の太さも細いものからパンツのゴム紐みたいにかなり飲み応えのありそうなものまで、誤嚥事件に「ありえない」という予断は禁物のようです。飼い主が思いつかないようなものまで、わんにゃんは何でも飲んじゃう、とことん飲んじゃうらしい。特に猫の場合は、舌の構造からして本人も飲みたくないのに飲んじゃうことがままあるようです。猫の舌にはギザギザの棘のような突起があって、一度そこにひっかかってしまうと、吐き出すことが難しい。だから、特に紐状のものは口に入り始めたら、外に出せなくなって飲み込むしかなくなっちゃう、というわけです。そして、一旦飲み込んでしまうと、紐は恐ろしい結果をもたらすことが多い。なぜなら、腸に紐が絡まって腸を傷つけたり閉塞を起こし、放置しておくと死に至るというのです。腸まで下りてしまうともう開腹手術で取り出すしか術がありません。
正直言って、この時点で初めて事の重大さに青くなりました。すぐにバカオに電話をして今日は早く帰ってきてもらうように頼みました。そして獣医にミスティを連れて行きました。ミスティがおもちゃの紐を飲むところを目撃したわけではありませんが、飲み込んだのがミスティだというのは99%くらい確信を持っていました。なぜなら、事件発生当時の数十分間、ニチオとハルはずっと私のそばにいたし、ルイルイさまは2階にいたし、ジュニ男はいつものソファカバーの中で爆睡していましたから。そして、ハルに遊びを横取りされてしまうと、おもちゃ自体を破壊しにかかるのがミスティの常でしたから。
ミスティは普段どおり元気で、食欲も排便も正常でした。そして、既に紐が消えてしまってから2日経っていたので、胃の中に紐が残留している可能性は低くなっていました。が、とにかく獣医に行くしかない、と思いました。ブラジル獣医はイマイチ信用できませんが、このまま様子見をしていていいわけない、と思いました。
夕方遅くなってから、例のマルコの動物病院に連れて行きました。出てきた獣医はヴェロニカで、「あちゃー」と思いましたが、仕方ありません。ヴェロニカはとりあえず今日のところは胃腸の動きを鈍くしようとブスコパンをミスティに注射しました。そして、翌日画像診断専門の獣医が来るので、腹部エコーをかけるように勧めてくれました。一応、血液検査もしましょうということでチャレンジしたのですが、ヴェロニカ、採血下手すぎ。あまりの手際の悪さに、「もう、いいから!」と断りました。ちゃんと静脈の位置を確認しないでどんどん針を刺しちゃうので、バカオも激怒寸前でした。血液検査は翌日、出勤する血液検査専門医のパオラに任せることにしました。
その翌日。画像診断は10時の予約でしたから、12時間の絶食の指示にあわせて前夜10時から絶食させていきました。ミスティはこの時点でも元気も食欲もアリアリで、まったく普段と変わらない状態でした。おなかがすいた-!と何度も朝ごはんを催促していました。まだ何の症状も出ていないのに画像診断をする意味があるのか、エコーで異物誤嚥の異常が見えるものなのか、ふつふつと浮かぶ疑問をポルトガル語でA4用紙1枚にまとめたものを、病院に持参しました。口頭で説明するのは時間がかかるので、書いたものを見せたほうが話しが早いだろうと思ったから、です。
こうして私の言いたいこと、考えていることをまとめて、文書にして持っていったのは、とてもよかったと思います。画像診断の担当獣医に私の懸念を理解してもらって、ベテラン獣医のガブリエラと話しをすることが出来たので。ただ、結果から言うと、エコーで異常が見えるのはやはり腸まで紐が下りてきて、腸に絡まり始めてからであって、その前段階ではエコーではわからないですよね。でも、エコーをかけることに決めたのは、麻酔をしないので大きな負担がないこと、紐が腸に絡んで嘔吐や排便の異常、元気消失などの目に見える症状が出始める前に、少しでも早い時期にわかったほうが絶対いいことには間違いないわけで、だったら見える可能性にかけてみましょう、とガブリエラと話し合って納得出来たから、でした。
結局、エコーでも異常は見えませんでした。ガブリエラは80センチもの長い紐を飲み込んで、異常が出ないで排泄に至るというのは非常に考えにくいので、少しでも様子がおかしくなったらすぐに連れてくるように、と言ってくれました。実は時期的にカーニバル休暇を控えていたので、我が家で緊急事態が起きる可能性があることをマルコの病院に知らせておきたいというのも、私が望んでいたことでした。休暇期間中も病院は開いていますが、スケルトンクルーで営業していることは間違いありません。ミスティの容体が急変して担ぎ込む可能性があることを、事前に知らせておいたほうが対応が早いだろうと思ったのです。
しかし、結局ミスティはその後もいつもどおり元気で、もしかしたら、紐は飲み込んでいないんじゃないか、と思うくらいでした。でも、ウンコの観察はきちんと続けていました。そうしたら、紐がなくなって1週間くらい経った頃でしょうか。ウンコの中にバラバラになった紐が混じるようになりました。やっぱり飲み込んでいたんです!その後も4日間くらいは、切れ切れになった紐状のものがウンコに混じっていました。紐は千切れてほぐれてバラバラにになっていたので、全部つなげて本当に80センチ分、排泄されたかどうかは確認できていません。が、相当な長さが出たことは間違いないです。
その後、ミスティが一度大きな毛玉を吐いたことがあり、もしかして胃の中にまだ残っていた紐が一緒に出たか?と思って、ゲロもほぐして確認しましたが、紐は混じっておらず、全部自前の毛玉でした。おもちゃを放置するという私の不注意に対する刑罰はウンコほぐしの刑でした。ウンコほぐしの刑には、3週間強、処せられました。しかも、確実にミスうんとわかった日はともかく、そうでない日は最大5個、ほぐさなければなりませんでした。それでも、ウンコほぐすくらい何でもないです。下僕の不注意で大事なお猫さまを死なせてしまうことに比べれば。
ミスティの場合は、幸運にも腸に絡んで開腹手術にはなりませんでしたが、それは本当に稀なケースでとてつもなく幸運なことでした。しかし、80センチ分の紐が完全に出てきたと100%の確信を持つことはできないのです。あれ以来本猫がずっと絶好調なことから、状況的には胃の中や腸内に残留している可能性は非常に低いと思いますが、いつか残留していた紐が悪さをして具合が悪くなることがないとも限りません。結局、下僕には3週間ウンコほぐしの刑だけでなく、心配の種をいつまでも抱えなければならないという、ミスティ一生分の執行猶予が課されたとも言えます。
とにかく危ないものはすぐにしまう。ほんのちょっとの間だから大丈夫とか、こんなもの飲み込んだり食べたりしないという予断を持たないこと。そして、万一、飲み込んじゃった場合、飲み込んだかも知れないと思ったとき、様子見はダメです。すぐに獣医に連れて行ってください。飲み込んだ直後、まだ胃の中に異物がとどまっている間なら、催吐剤を飲ませて吐き出させることが出来るし、内視鏡を使って取り出すことも可能です。内視鏡を使うときは全身麻酔が必要ですが、腸の中に下りてしまった異物を取り出す開腹手術よりずっと体への負担は少ないです。腸の中に異物が移動してしまうと、異物の場所を特定するためには、まずバリウムを飲ませながらレントゲンを撮り、全身麻酔で開腹手術をして、場合によっては何箇所も腸を切ってつなげて、という大手術になります。術後に癒着を起こして閉塞したりという後遺症も心配です。異物誤嚥の対処は早いに越したことはありません。
賢明な飼い主の皆さんは、どうか私のような間違いを犯さないようにしてください。身の回りの安全をもう一度、お猫さまの目で点検してあげて下さい。
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