我が家の年寄り猫たちには、カリナール2とマイトマックススーパーの2つのシンバイオティクス・プロバイオティクスを使っています。
でもアメリカで慢性腎不全の猫たちにもっともよく使われているサプリメントは、おそらくアゾディルAzodylだと思います。私が入っているメーリングリストのメンバーにも使っている人は多数いるようですし、獣医から服用を勧められるケースも多いようです。多くの飼い主は、アゾディルにクレアチニン値を下げる効果を感じているようです。冷蔵品であるにもかかわらず、日本でも輸入して使っている飼い主さんは結構いるみたいですね。
こんな風に非常に人気の高いアゾディルですが、実はその効果はきちんとした臨床実験で証明されていないんですね。100匹の猫を対象とするART(Azodyl Renal Failure Trial)という調査が企画されていたようですが、その調査の進行状況については残念ながらトレースできませんでした。
今のところまとまった論文として発表されたのは、Journal of Feline Medicine and Surgeryの2011年6月号のReshiniw. MとWynn SGの”Azodyl, a symbiotic, fails to alter azotemia in cats with chronic kidney disease, when sprinkled onto food"だけのようです。
論文のアブストラクト要約によると、結論はタイトルが示すとおり「アゾディルは餌にふりかけて与えると、慢性腎不全猫の高尿素窒素血症に変化をもたらすに至らない」というものでした。が、この臨床実験はダブルブラインドでコントロールされたものではありましたが、実験に参加した猫が10頭と限定的だったのが気になります。少なくとも素人目には臨床実験を行って一定の結論を導出するにはあまりにサンプル数が少なく感じます。またサプリメント投与をメーカーの推奨するカプセルのまま飲ませるのではなく、ご飯にふりかけるという方法に限ったため、Azodylそのものの効果を検証するには至っていません。結局、飼い主の使用感では効果が感じられているけど、本当のところはわかんね、状態のまま。
何で今頃、アゾディルの話が出てきたかというと、ちょっと前のエントリでお知らせしたとおり、同じように慢性腎不全猫の体調管理に効果があると謳って販売されていたRenAvastが、FDAアメリカ食品医薬局から販売差し止めの措置を受けたからです。私がいろいろ読んだ範囲では、RenAvastはアゾディルほど人気はないような感じですが、それでも効果を感じて購入していた飼い主はいて、獣医に勧められて使っていたという人もいるようでした。
ただ、RenAvastがFDAの承認を得ずに安全性や医学的効果を宣伝して販売されていることについては、もう何年も前から苦情があったらしく、FDAも何度か製造・販売元に勧告をしていたらしいです。今回の厳しい措置は、時間をかけて行った内偵捜査(実際FDAが購入して成分分析を行った?)の結果という噂があります。しかし、製造・販売元もまぁ、根性座っているというか、なんというか、すぐに名称を変更して販売継続しているんだから、恐れ入りますよ。Entirely Petのサイトでも堂々と売られています。しかし、そんなに自信のあるものならば、正々堂々とFDAの承認を受けたらどうか、と一消費者の私は思わなくもない・・・。
RenAvastとAzodyl、私はどちらも使ったことはありませんが、アメリカにまだ住んでいて簡単に入手できる状況であればきっと使ってみたと思います。特にアゾディルには興味があります。使用して少しでも効果が感じられれば、FDA未承認であっても使い続けるかも知れません。ただ、慢性腎不全の猫のコンディションはいろんな要素に左右されるので、仮にサプリメントを与え始めてクレアチニンなどの数値が改善したとしても、それを直接サプリメントの効果と評価していいのかどうかは難しいところなんですよね。
我が家が使い続けているカリナール2とマイトマックススーパーもしかり、です。効果があるんだか、ないんだか、正直わかんないです。便の状態がよくなっていることと、少なくとも副反応はないのは確かなので、なんとなく使い続けているというのが実情。ただ、カリナール2とマイトマックススーパーは(少なくともRenAvastと違って)含有成分を公開しているので、継続投与にあまり不安を感じないのは確かです。
人間の慢性腎不全患者にプロバイオティクスが効果があるという研究結果は出ていますし、慢性腎不全が腸内細菌叢を変えてしまうという研究結果も出ていますから、プロバイオティクスのサプリメントを取らせることは全く明後日の方向ともいえないだろうと思ってます。もちろん、雑食の人間やラットで得られた結果が、肉食の猫科動物に当てはまるのか、という疑問は残っていますけど。まぁ、鰯の頭も信心から、と言いますからねぇ。私は使っていますけど、すごく効果がある!ぜひ使うべき!と推奨しているわけではないのですよ。すまん寝。
なんせ、獣医療の分野でのプロバイオティクスの研究はまだ始まったばかりです。そして、一口にプロバイオティクスと言っても、細菌の種類は無数にあり、どんな腸内細菌がどんな病気に効くのか、詳しい研究は全く進んでいません。また、個々の細菌にすべての患者が同じように反応するとも限らないので、普遍的に劇的な効果をもたらす薬剤として確立できるかどうかもわからないと思うんです。
ま、何が言いたいかというと、サプリメントは所詮サプリメントであって、効果があるような気がするけど、それはきちんとした実験では証明できないことが多い、ということを忘れないで欲しいのです。だから、使うか使わないかは、個々の飼い主さんの判断次第。カリナール2とマイトマックススーパーも私はとりあえず使ってますけど、エビデンスのない治療法を盲目的に信仰して使っているわけではないのであしからず。
今回の記事のリソースは主として、私の入っているCRFのメーリングリストとThe SkeptVetという獣医のブログでの
議論です。
なお、引用したRishniwとWynnの論文アブストラクトは、
こちらで読めます。
その他の参考資料を簡単に紹介しておきます。
Vayiri, UC Irvine, et.al.
Chronic kidney disease alters intestinal microbial flora
慢性腎不全は腸内細菌叢を変える
Friedman, MD, State Univ. of NY
Can the bowel substitute for the kidney in advanced renal failure?
進行した腎不全で腸が腎臓の代替機能を果たせるか
Vietta, Univ. of Queensland, et. al.
From the gastrointestinal tract to the kidneys: Live bacterial cultures (probiotics) mediating reduction of uremic toxin levels via free radical signaling
消化管から腎臓へ:フリーラジカルシグナリングにより尿毒素の減少を仲介する生きたバクテリア(プロバイオティクス)
McCain, DVM, Univ. of Tennessee, et. al.
The effect of a probiotic on blood urea nitrogen and creatinine concentrations in large felids
大型猫科動物におけるBUN及びクレアチニン値にプロバイオティクスがもたらす効果
Suchodolski, DVM, PhD, Texas A&M Univ.
The use of probiotics in small animal medicine
小動物医療へのプロバイオティクスの使用
上から3本の論文は人間が対象、下から2本が獣医療分野のものです。なお、上記はオープンアクセスになっているので、どなたでも英語の原文を読むことが可能です。
プロバイオティクスについては、個人的にとても興味があるので、9月から発行するメルマガにそのうち書こうと思ってます。