5) 鎮静剤・抗不安薬
これまでの経験で、ジュニ男が大鳴きすることは十分予測できたので、今回の引越でジュニ男にだけはお薬を使いました。過去の移動時に使ったバッチフラワー、ホメオパシーなどのalternative medicineではなく、今回使ったのは西洋医学バリバリの抗不安薬Xanaxです。
本当はもっとも一般的な鎮静剤Acepromazineを使うつもりでした。パサデナのかかりつけの獣医さんもそっちを勧めていましたし。でも、予備的に自宅で投与した結果、Xanaxの方がジュニ男には向いていると思われました。それで出発前にもう一度猫先生に相談して、Xanax1本で行くことに決めました。
Xanaxはジュニ男の体重では、1回あたり錠剤の2分の1。24時間以内の投与量は3回までと言われました。つまり、8時間おきにしか飲ませられないということです。猫先生は出発の1時間前に1回目を飲ませるようにと勧めましたが、私は家を出る直前、タクシーに乗り込む15分前に飲ませました。パサデナの家からLAXまでは車で30分、それからチェックイン、搭乗までの待ち時間、と実際に搭乗するまで、かなりの時間をロスしてしまうので、なるべくギリギリに飲ませて、飛行機の中で薬の効果が切れないようにしたかったんです。
ちなみに、薬を飲ませたジュニ男だけでなく、すべてのお猫さまは最低4時間は絶食させました。移動中のキャリーの中で嘔吐して、その吐しゃ物が気管に入って窒息するのが怖いからです。一応、胃の中に食物がとどまる時間が大体4時間なので、ミニマム絶食時間にしました。正味20時間近い移動を考えると、これ以上絶食させるのもかわいそうなので。なお、今回の移動中、誰一人キャリーの中で粗相はしませんでした。
さて、ジュニ男に飲ませたXanax、本当に効いていたのはたぶん1回投与あたり6時間くらいでしょうか。8時間のインターバルのうち最後の2時間はかなり覚めていたと思います。そして、2回の投与までは薬の効き目が実感できたものの、3回目はもうあんまり効いてなかったっぽいです。もちろん、効き目は個体差があるので、必ずしもジュニ男と同じ効果がすべての猫に顕れるとは限りませんが。
気になる副作用ですが、飼い主が気がつくようなものはなかったですね。ただ、正体不明の間に移動して、本猫に怖い思いをさせたくないという目論見どおりにはいきませんでした(過去記事参照)。サンパウロへ飛ぶ便が遅延するというアクシデントがあって、予定より時間がかかったという不運もありましたが、結局、途中からすごーく鳴いちゃいましたし。将来、もし、また移動することになったとき、どうすればいいのか、今回の経験で飼い主の悩みはさらに深まった感があります。
ジュニ男には副作用は見られませんでしたが、鎮静剤や抗不安薬の使用は命にかかわる場合があります。そもそも投与可能な健康体なのかの判断と、投与量の決定は素人にはできません。必ず獣医師の診察を受けてください。また、温度や気圧、酸素量が必ずしも機内と同じ環境にならない貨物預けの場合、鎮静剤等の使用は推奨されておらず、多くのエアラインで禁止されていることにご注意ください。
6) ブラジルのペットホテル
サンパウロの犬飼いさんを通じてうわさには聞いていましたが、こちらに来てみて、ブラジルのアッパーミドルクラス以上の生活圏が予想以上にわんこ天国であることを感じています。ブラジルでは近年生活水準が上昇しペットを飼う人が増えて、急速に大都市圏を中心にペットインフラが整いつつあります。が、それは残念ながらわんこ中心。ペットとしては猫はまだまだマイナーです。特に世界一猫インフラの整備されているアメリカを見てしまった後では、キャットフードもおもちゃもトイレ周りの必需品も何もかも、えーこれだけしかないの?と、正直かなり落胆しています。
一番落胆したのは、猫を預かってもらえる場所がほとんどないということ。今回の引越のスケジュールでは、どうしても先発組のヤンキー娘2名を2週間、ブラジルでどこかに預かってもらわなければいけませんでしたから。
当初は、一番近くにある24時間体制の動物病院に預かってもらうつもりでした。ここはバカオが1度下見に行って、まぁ、何とか英語が通じそうということでしたし、HPに犬猫の預かりOKとあったので、当てにしていたんです。が、ペットホテルの施設を見学かたがた予約しようと訪れてみたところ、猫の預かりはやっていないというではありませんか!アメリカから打ったメールに返事がなかったのはそのせいかっ?そのときはマジで目の前が真っ暗になりましたよ。「じゃー、どうしたら、いいんですかっ!」と気力となけなしのポ語を振り絞るアタクシ(受付嬢は英語を話せませんでした)。「犬の別荘なら、預かってもらえると思います。」「それはどこにあるんですかっ。住所、住所を教えてくださいーっ!」
と、いうやりとりの末、タクシーを飛ばすこと、約5分。辿り着いた”犬の別荘”は閉っていました。orz。しかし、たまたま駐車場で掃除をしていたブラジレイロ(ブラジル人の男性)2名と話すことができ、猫も預かれること、今日は日曜日だから最小限のお世話係しか出勤していないけど、平日は受付に英語を話す人がいるので出直して来てね、と言われました。しかし、最初はここまで理解できなくて、このVilaももう閉まっちゃった=fechadaのかと一瞬絶望したり、今回の引越大作戦で一番精神的に消耗したのがこの日でした。
で、翌日出直し。女性オーナーはそこそこ英語が話せて、クライアントには外人も多いらしく、ブラジル赴任に帯同してくるわんこを空港まで出迎えに行くサービスもしているとのこと。ただ、名称のとおり基本的にはわんこの預かり(デイキャンプやホテルとして)がメインで、猫はあまり扱わないとのこと。猫はケージ預かりになるので、特に長期は通常は受け付けないんだと言われてしまいました。「2週間もケージ生活はかわいそうでしょう?」と。
そりゃーそーですよ。アタクシたちだって好きで2週間も大事な娘たちを預けたいわけじゃありません。でも、他に選択肢がないんです。5匹の猫を全員機内持ち込みで移動させるためにはどうしても留守番が必要で、しかもビザの手続もあって2週間を短縮するのは無理なんです。できれば、家にきてくれるキャットシッターの方が望ましいけど、借家は出入りの制限されているgated communityにあり、家事使用人などを入れるためにはあらかじめ登録が必要だし、緊急事態に英語でメールのやり取りができることが必須なので、どうしてもお宅に預かっていただきたいんです!!!!
という熱弁をふるうアタクシ(ここは英語でした)。オーナーが、じゃぁ、お預かりしましょう、と言ってくれたときにはヘナヘナと座り込みそうでした。
ちなみに、ここVila dos Caesでは、預かる条件として付属の動物病院で簡単だけど健康診断が必要です。伝染性の疾患がないこと、ワクチンや蚤駆除などがup to dateでないといけません。が、非伝染性の慢性疾患(糖尿病など)がある場合は、付属病院の獣医の下、スタッフが必要なケアをすることになっていて、それがセールスポイントになっています。投薬のほか、預かり期間中のご飯やお世話の仕方などは飼い主の希望に沿うことになっています。わんこの場合は、1週間に1回、シャンプーサービスがあるそうですが、うちは猫なのでお風呂はNG。ちなみに預かり料には多頭割引があり、2匹で預けるので我が家は10%オフでした。
施設は山の上にあり、すばらしい眺望付。風通しも日当たりもよく、立派な運動場にプールまであって、わんこ向けとしては、この上ないすばらしさ。スタッフも皆さんわんこ好きでいい感じではあったんですが、猫についてはあんまり経験がなさそうなのが不安でした。というか、悪いけど、ブラジル人はいい人が多いけど正直いい加減な人も多くて、日本やドイツ、アメリカ的標準からするとイマイチ信頼性に欠けるのは否めません。どうでもいいことならともかく、うちの大事な娘。2名を預けるにあたって、万一のことがあったら大変なので、念には念を入れておきたいという思いがアタクシ(実は粘着質)にはありました。
それで、預かり期間中のお世話の仕方について、ポ語の先生の助けを借りてA4用紙3枚に注意事項を英語とポ語で書いてそれをケージに貼ってもらうことにしたんです。一番心配だったのは、不注意で猫が逃走しちゃうこと。まぁ、結構な料金を取ってプロとして責任もって預かるわけで、そんな事故はあってはならないし、きっと今までもなかったとは思うのですが、なんせここは犬の楽園。あちこちにわんこがいて四六時中吠えてるし、猫たちを怯えさせる環境であることは間違いないんです。だから、特にしつこく書いたのは、うちの猫はインドアオンリーで育っていて犬を怖がること、お世話のためにケージを開けるときにはケージのある部屋のドアは必ず閉めてくださいね、犬を近づけないでくださいね、ということでした。この指示書に加えて、さらに英語で、うちの猫がいかにアタクシたちにとって大事な存在か、何かあったらタダじゃおかねーぞ、というニュアンスをこめたメールもオーナー宛に送りました。
こうしたしつこい働きかけが、実はオーナーをちょっと怒らせてしまったんですよね。Relax!We know cats are different from dogs and we do love cats, too, even though our facility is called Vila dos Caes.という返事が来てしまいました。アタクシ、慌ててお返事を書いて、気分を害してしまわれたならごめんなさい、とあやまりましたが、まぁ、ここまで念を押したことは決して悪くなかったと思います。預かり期間中、ずっとFacebookを更新してくれて、毎日、ミスティとハルの様子を知らせてくれましたし、お世話もオーナー自らと付属病院のAHTの男性だけでやってくれて、入れ替わり立ち代りスタッフが出入りすることにならなかったので。もちろんアタクシは毎日Facebookを見て、今日も手厚くお世話してくれてありがとう、というお礼のメールを欠かさず送りました。
プレッシャーをかけなくても同じようにやってくれた可能性はあるけれど、ブラジル人は結構プレッシャーに弱いのと、自分が誰かに向かって約束したことに縛られてがんばっちゃうところがあるから、私のやり方でよかったのよと、パサデナのポ語の先生は言ってくれました。
お世話はきちんとしてもらっていたものの(たくさん撫でてもらっていたみたい)、この2週間のケージ生活がミスティとハルにとってショックだったことは間違いなく、あまり食が進まなかったようで、2匹ともちょっと痩せてしまいました。ミスティは帰宅後しばらく混乱していて、アメリカから到着したばかりのニチオ、ルイルイ、そしてハルにまでシャーシャー言って、手当たりしだい殴りかかっていました。ニチオとルイルイは、パサデナの家から、娘。2名がいなくなったあと、静かな生活をエンジョイしていたので、長時間移動の後、新しい家で再会したときは、「おまえら、居たのかよっ」「かぁちゃん、あいつら捨てたんじゃないのっ」という感じでした。が、ジジババもあきらめたらしく、今ではそこそこ仲良く暮らしています。