2013年1月15日追記:この記事の目的は特定のエアラインのペットハンドリングについて批判することではありません。また、米系エアラインに比較して日系・欧州系のエアラインを推奨するものでもありません。合衆国内で起きたペット貨物輸送中の事故を取り上げたために、北米のエアラインの会社名が出ているだけです。さらに、ペット貨物輸送のリスクを確率で語るつもりもありません。きちんとしたハンドリングルールを持ってペットフレンドリー、ペットセーフを謳って貨物輸送サービスを提供している場合でも事故は起こりうるのが現実です。そして事故が起きたときにはペットの命が犠牲になるということ。飼い主さんはペット航空輸送のリスクをきちんと理解し、輸送の安全性を高めるためにあらゆる対策をすべきです。また、人任せにしたり、引っ込み思案にならずに、輸送に携わるすべての人々に注意を促すよう、自らの責任で積極的に行動することが重要です。
As pet deaths continue, airlines pressured to change their ways
CNNのホームページで気になる記事を見つけました。ここで言及されていたジャックというノルウェイジャンフォレストキャットの事故、私が既にアメリカに住み始めてから起きた事故だったのに、これまで知りませんでした。この事故は
Wikipediaの一項目Jack (Cat)としてまとめられています。
かいつまんで説明すると、ジャックは2011年8月にニューヨークのJFK空港で行方不明になりました。行方不明になった原因は、アメリカン航空の地上職員のハンドリングの拙さ。ジャックの入ったケージの上に他のペットのケージを重ねて置いたため、上に重ねたケージが荷崩れした瞬間、衝撃でジャックのケージが開いてしまったんだそう。ケージから逃げたジャックは61日後に発見されたものの、行方不明の間に怪我した傷から感染症を起こしていました。飼い主さんはせっかくジャックを取り戻したのに、彼は極度の栄養失調と脱水でひどく衰弱していて、感染症の治療に耐えられないだろうということで安楽死させるしかなかったそうです。
ジャックが見つかるまでの間、Facebookを通じてジャックを探せ!という運動が盛り上がり、動物愛護団体を中心に空港内の捜索が行われたのだそうです。しかし、受託荷物の仕分け作業所は動物をおびえさせるものであふれており、探すべき場所はあまりに広く、かつ、安全保障上の制約があり自由に立ち入れない場所ばかりで、捜索の成果は上がりませんでした。そう、ジャックが発見されたのはまったくの偶然だったのです。行方不明になった場所からどういう経路でか天井に上がってさまよっていたらしく、天井伝いに税関エリアにたどり着いたところで衰弱して落下し、発見されたのですから。
日本ではほとんど報道されないので一般には知られていませんが、空港内や飛行機の貨物室内で行方不明になるペットはかなり多いんですね。1994年には
Tabithaという猫の事故がありました。彼女はタワーエアーという航空会社のニューヨーク・ロサンゼルス便の貨物室内で行方不明になったまま、飼い主がUS最高裁に差し止め請求をするまでエアラインが問題の機材の運航を継続したために何マイルも旅をする羽目になったのでした。
Tabithaは幸い生きたまま救出されましたが、貨物室内では死亡事故も後を絶ちません。CNNの記事で言及されていた米国人モデルの愛犬Beaの物語は、英語に抵抗のない方はぜひ
飼い主のブログの原文を読みにいってください。
Beaことベアトリスは、アメリカ東海岸から西海岸へユナイテッド航空の貨物室で移動の際に、熱中症で死亡したラブラドールレトリバーです。飼い主のブログには彼女への哀惜と、ひたすら責任逃れのために事実を隠蔽しようとしたユナイテッドへの怒りがつづられています。ジャックの事件のときもアメリカン航空の対応は、飼い主さん、一緒にレスキューに当った愛護団体のボランティアを含む関わった人々を怒らせがっかりさせるものだったようです。
アメリカのエアラインは熾烈な競争にさらされています。彼らは競争に打ち勝つためになりふり構っていません。顧客を引き付けるためあの手この手でいろんなサービスを売り出して、「安全なペット輸送」もそんなサービスのひとつです。しかし、営業で謳われているサービスの内容と、実際に提供されているサービスがイコールとは限りません。事故が絶えないことからも、ペット安全輸送のガイドラインは現場では必ずしも守られていないことがわかります。
飼い主と同じような注意と愛情をエアラインの全職員に期待するのは、残念ながら現実的にみて、あまりにナイーブ過ぎると思います。結局、ペットの安全を守るには飼い主が行動するしかありません。安全な空の旅を実現するために、飼い主ができること・すべきこと、www.WhereIsJack.orgで
チェックリストにまとめてありました。ペット連れで海外転勤する方々にぜひ見ていただきたいので、日本語訳を下記に用意しました。クリックして見て下さい。
(米国内向けのリストなので、ハンドリング職員が南米からの移民である可能性を考慮した記述がいくつかありますが、そのまま訳してあります)
知られていないだけで飛行機の貨物室で移動中の事故、決して稀なことではありません。ですから、どうしても避けられない転勤による海外引越しならともかく、不要不急の旅行にペットを飛行機の貨物室預けで連れて行くこと、私は個人的にはあまりいいことと思っていません。仮に事故が起きなくても、長距離移動のストレスを与えてまで短期間の海外旅行にペットを連れて行く必要がありますか?少なくとも私には飼い主の自己満足以外に価値のある行動とは思えないです。飼い主さんにはよくよくリスクを考えた上で行動して欲しいと思います。傍から口出しするのは余計なお世話ですが、どうしても連れて行くのなら、せめて貨物室に入れるときのクレートの選択は、ペットの安全第一を考えて行うべきで、飼い主が持ち回りに便利だからと軽くてヤワなものを選ぶのは、行方不明事故の大半がクレート破損でおきていることからも止めるべきだと思います。
空港に行く前に
□ペットの予約:利用するエアラインの職員に直接連絡してフライトを予約すること。米国内のエアラインはペットのオンライン予約を受け付けていない。ペットを機内に持ち込むのか、貨物エリアに受託するのか明確にすること。
□キャリー・クレートを注意深く調べる:すべてのジッパー、縫い目、ロック、ねじ、接続などをチェックすること。構造的な問題があることがわかったら、新しいクレート・キャリアを購入すること。
□鎮静剤を与えないこと。健康な動物でも鎮静化では飛行のストレス(クレートに入れられ、飛行機の爆音とカーゴ内の温度・気圧)によって病気になったり、死亡する可能性があるため。
もし、あなたのペットが受託荷物または貨物扱いでカーゴエリアで飛行する場合には
□可能な限り直行便を利用すること。
□結束バンドを購入すること。結束バンドは荷物の中でも空港ですぐ取り出せる場所にしまっておくこと。
□クレートドアの上下両脇、全周囲にドリルで穴をあけること。TSAのセキュリティインスペクションが終わった後、この穴に結束バンドを通して閉められるように。
□クレートの全部の面に、あなたの携帯電話番号を貼付すること。さらに、英語及びスペイン語でペットのハンドリング中に必要な場合は、すぐにこの電話番号に連絡するよう指示を書いておくこと。
□クレートのドアの上に、閉鎖された空間で緊急の場合を除いて、絶対にドアを開けないこと!と大書しておくこと。(スペイン語の翻訳もつけておく)
空港のチェックイン窓口で
□TSAのセキュリティスキャンは、閉鎖された空間内で行うようにリクエストすること。荷物のチェックインの際には、ペットを預ける前に、エアラインの発券係員にTSAの係官を呼んでもらうか、セキュリティチェックのためにどこに運搬すべきか尋ねること。
□TSAの検査が終わったら、クレートまたはキャリアにHomeland Securityのタグをつけてもらうこと。
もし、あなたのペットが受託荷物または貨物扱いでカーゴエリアで飛行する場合には
□TSA検査終了後、結束バンドをクレートのドアと側面部分にくくりつけ、クレートが開かないよう万全を期すこと。
□エアラインの職員に、もし、追加のセキュリティチェックが必要な場合はすぐにあなたに連絡するように依頼すること。チェックインの後もペットのハンドリング中に複数回のセキュリティチェックを通過する可能性があることを忘れないこと。
□搭載される飛行機までの移動に、牽引車を使わないように要請すること。
□エアラインの職員に、ペットの入ったクレートを積み上げるのは法令違反であることを念押しすること。違反した場合は100,000ドル以下の罰金が科せられる。
□搭載されるまでの間、どこにペットが保管されるのかたずねること。
空港の搭乗口で
□機内持ち込みのペットは、キャリアを完全に閉じておくこと。ペットをここで失うリスクを犯さないように!
もし、あなたのペットが受託荷物または貨物扱いでカーゴエリアで飛行する場合には
□搭乗口に行き、あなたのペットの入ったクレートが搭載されるところを見届けること。USDA規則ではペットは一番最後に搭載され、一番最初に降ろされることと定められている。
□搭乗口の係員にペットが搭載されるまで自分は搭乗しないと告げること。
□搭乗したら機長に話しをするよう頼むこと。あなたのペット(クレートの特徴を説明)が安全に搭載されたことを確認すること。飛行中のカーゴエリアの温度調節の際、ペットがいることに留意することを頼むこと。
□ギリギリまで携帯電話の電源は切らないこと。
目的地で
□到着したら、ペットのクレートが降機したことを確認すること。
□完全に安全な場所にたどり着くまで、クレート・キャリーからペットを出さないこと
しり込みしないで。質問しましょう。人々に知らせましょう。主張しましょう、あくまで礼儀正しく。あなたのペットが正しく安全にハンドリングされるために必要なあらゆる手段を講じましょう。あなたの知識と積極的な関与が、ペットが安全に取り扱われるように世の中を変えていくのです。